目 次
30
31 《八郎》子と源為朝
32 英語のislandの語源
33 〈シマ・ウッナー〉カイエ(1)
34 〈シマ・ウッナー〉カイエ(2)
35 還住(かんじゅう)と還住(げんじゅう)
36 息津嶋神・葛嶋神・坂代神という三島〈三宮〉構造
37 八丈嶋の「わきしま」鬼が嶋の〈五種+α〉神宝
38 都議補選(島嶼部)の開票結果と普天間の問題
39 村有地に建つ青ヶ島の神社
40 青ヶ島が奪われる?
41
32  英語のislandの語源
2007.12.01
 
 わが家の最寄り駅の東急池上線池上駅の近くにある古本屋で、100円のS.ポーター著、吉松 勉訳註『英語学概論』(昭和48年6版、千城)という本を買った。それをパラパラめくっていると、その43ページに次のような記述があった。
「新しい綴りのうちには誤解に基づくものもあった。たとえば、中世英語のiland[島]は、古代英語のieg[島]+landから来たものであるが、これがラテン語のinsulaから出たそのロマンス系の同意語isleと間違って連想された。それでilandは書くのも、印刷するのもisland
となったが、それでも、間に入ったsを発音しようとするものはなかった。」
 厳密にいえば、この文章はislandの語源についての説明ではない。そして、わたしが想うには、なぜ「間違って連想された」のか、ということである。ieg+land→ilandにおけるiegのほうの発音はおそらく「イー(グ)」であり、ilandは本来「イーラント」のはずである。ところがiをアイと発音するからisle(アイル)と間違って連想してしまうのである。しかし、ここではラテン語のinsula(インスーラ)に引きずられたisleやislandになると、なぜnが脱落してしまうのか―が示されていない。
 というよりも、islandの語源を考えるとき、[i]は「アイ」ではなく「イー」ではなかったか、と思えるのだ。じつは、わたしは『しま』NO.186(平成13年7月)掲載の「ヨーロッパ諸語における島を意味する語」を書いている。その中の「英語islandの語源」の部分だけを採り出してみよう。
「最後に、英語のislandの語源を考えておこう。じつは、わたしは度し難いほどの語学音痴だが、コトバ自体には異常なまでの関心を持っている。中学生のとき初めてislandという単語を目にして、なぜsの字を発音しないのか、大いに疑問を持った。数年前から、島を意味するヨーロッパ諸語を調べていると、イタリア語のIslandやスペイン語のIslandiaがアイスランドを意味することを知り、じつは仰天した。アイスランドは英語ではiceland(冷たい島)だが、イタリア語のようにislandと綴るほうが本当は自然だ。ちなみに、アイスランド語ではアイスランドのことをIsland(イースラント、ただしIの上に´を付ける)」と呼んでいる。すなわち、島とアイスランドが同じ発音だとマズイのである。
 最寄りの区立図書館で『新英和大事典』(研究社第5版)を引くと、islandは古くはilandとか、i(e)glandと記し、sの字は16世紀末ごろから用いられるようになった、と指摘されている。わたしは最初、ig、egは縮小辞の転倒形と考えていたが、i、ig、ieにはwatery land(水辺の荒野)の義があることを知り、もし、そうであるならば、英語と同じ低地ドイツ語系(西ゲルマン語群)のオランダ語のEilandにも注目しなければならない、と考えた。もちろん、アイとエイでは音韻が限りなく近い。さらに、アイスランド語を含む北ゲルマン語群(ノルド諸語)も調べなければならないと思った。(表と9行省略)
 ドイツ語の島Insel(インセル)はラテン語insulaの古形を保存しているが、ドイツ語には「河中島」を意味するAue(発音記号省略)という語もある。すなわち、このAueの語は北欧系のノルド諸語(デンマーク語、スウェーデン語、ノルウェイ語、アイスランド語)とひじょうに近い位置にあるといえよう。そうであるなら、英語のislandのiも同じい音韻構造の言語から発した可能性がある。(3行省略)
 ちなみに、イングランド(England)はアングル・ランドの転訛である。アングルはアングロ・サクソンのアングロでもあるが、原義は「角度」を意味するangleで、「隅っこ」や「奥まった所」の義もある。すなわち、ヨーロッパ大陸から見て、イギリス=イングランドは実際、隅っこの奥まった所の海に浮かぶisola(イゾーラ、イタリア語)であったわけである。Englandと表記すると、「水の中の荒野」の義と誤解される可能性もあったわけである。英語のislandにsの黙字がgの代りに綴り字として導入されたのは、おそらくロマンス語群にたいするコンプレックスなのかもしれない。
 なお、英語のisleは詩語として使われているが、明らかにロマンス語系の言語の影響を受けているこの語が普及しなかったのは、発音がアイルランドIrelandと紛らわしいからである。ireは「怒り・憤怒」を意味するが、アイルランドいう語の古形Iralandのアイラは、ギリシア神話のゼウスとテーミスの間の子の、平和の女神の名前から発している。いずれにせよ、イングランドからみれば、アイルランドという語も若干、差別的な呼称だったといえるかもしれない。」
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