目 次
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41 〈シマ・ウッナー〉カイエ(3)
42 尖閣諸島の周辺は波高し?
43 東京都心の埋没した“沖島”地名
44 認識及び思考の対象の枠外に置かれがちの伊豆諸島という存在
―青ヶ島を侮ること勿れ!―
45 地震以後、感じたことなぞ…
46 人口ゼロの自治体で選挙はできるのか?
47 「島」認定の沖ノ鳥島の影の功労者
48 「東洋」と「東海」
49 ムラと村−原子力ムラというときのムラの響き−
50 ロレンス・ダレル(1912~1990)の多島海的な心象風景について-h.20n. 1gt.頃のノートから
46 人口ゼロの自治体で選挙はできるのか?
2011.06.01
 
 平成12年国調によれば、東京都三宅村の人口はゼロである。なぜなら、三宅島火山の噴火活動で、三宅村は平成12年(2000)9月2日から17年(2005)2月1日まで全島避難をしていたからである。ところが、その三宅村で平成16年(2004)2月、村長選挙と村議会議員選挙が行われている。
 公職選挙法第9条によれば、市区町村長と市区町村議会の選挙権は、満20歳以上で、引き続き3ヵ月以上その市区町村に住所のある日本国民に与えられている。住民基本台帳を管轄している部署、すなわち住民票を担当している係は、住民票があるのに居住実態のない人を見つけたら、本来、首長の職権で登録を抹消し、厳密にいえば、その旨、選挙管理委員会へ通知しなければならないのである。そうしないから、戸籍上は生存している100歳以上の人々が続出したのである。かつて、わたしは僅かな期間、住民票の担当をしていたことがあるが、用例集にはそのようなことが記載されていたように思う。
 その視点からいうと、三宅村の村民は平成12年12月には三宅島の住民ではなくなっている。国勢調査はより現実の実態に基づいた調査だから、10月1日の時点で全員が三宅村の外へ避難しているから、人口および世帯数が「0」になっている。3年半も人口がゼロだった村で、選挙が行われたわけである。これは公職選挙法違反ではないか? ちなみに、かつて出稼ぎを多く抱えた市町村では、国調になると、出稼ぎ先の市町村と出稼ぎ者の人口の取り合いがあったものである。国の地方交付税に絡んでくるからである。
 わたしは全島避難の1年後、突然、そのことに気が付き、関係者に改善を求めた。しかし、「騒がないでほしい」ということで、元・青ヶ島村助役という立場もあり、騒がないことにした。数年前にも、この件で、自民、民主、公明の一部の「先生」方や、マスコミ関係者にメールを送ったが、完全に無視された。
 今回、総務省自治行政局選挙課へ電話したが、三宅村の選挙のときは「不在者投票」で処理したのではないか、とのことであった。たしかに、そうである。全島避難した住民で、他の市町村へ転出届を提出していない満20歳以上の「住民」は、新宿区の都庁、港区の芝浦幼稚園、立川市の女性総合センターで不在者投票を行ったのである。わたしの記憶では、山口県下関市の親類宅に身を寄せていた人は、たしか下関市選挙管理委員会で不在者投票をしているはずである。つまり、三宅島に居住実態が無くても、人口ゼロの幻の三宅村に「転入届」を提出し、3ヵ月が経過すれば、日本のどこからでも三宅村の選挙があれば、当時、投票できる状態になっていたわけである。
 実は、わたしは、平成12年12月の時点で、三宅村村議会議員は議員資格を失っていたのではないか、と思ったのである。それというのは、市区町村議員が何かの都合で従来の自宅からそう離れていない他の市区町村へ住民票を移さないまま引越しをして、そのことが新聞に暴露されて議員資格を剥奪された、という新聞記事を読んだことがあるからだ。すなわち、明らかに、三宅村に居住実態がないから、議員資格は喪失しているはずである。そして、すでに村民も地方選挙の選挙権を喪失していたはずである。つまり、三宅村では村長選挙も村議会議員選挙も、厳密にいえば、できなかったはずである。
 ただし、地方議員はその選挙区に居住していないと立候補できないが、首長の場合は当該選挙区内に住んでいなくても(被選挙権があれば日本の何処に住んでいても)立候補できるから、任期期間中、その地位に留まることができる。しかし、任期が過ぎれば、選挙ができないから、仮に三宅村の場合には東京都知事が前村長なり、相応しい人を村長職務執行代理者としてえらぶことは可能だ。その意味では人口ゼロの自治体を運営していくことはできる。かつての三宅村の場合、公職選挙法に基づく選挙ではなく、一種の「人気」投票で「村長」を選び、その人を都知事が村長職務執行代理者とし、当選した「議員」も「村長」が委嘱する「村政審議会委員」という方法もあったかも知れないと考える。
 実は、わたしは、こうした想定外の事態を想定して、地方自治体の「亡命政権」のようなものを提案していたのである。選挙に関しても、そのための法整備が必要であることを提言していたのである。しかし、わたしの意は届かなかった。
 今回の大震災で、間もなく、名実とともに、人口ゼロの自治体が再び出現する。緊急の選挙に関する法整備が必要だ。そうしないと、実は、選挙はできなくなる。
 もし仮に、菅内閣への不信任案が提出され、それが可決されれば、わたしは菅内閣が大嫌いだが、政治理論的には国会を解散すべきだと思っている。しかし、衆議院が解散されても、選挙はできないかもしれないのである。少なくとも、岩手・宮城・福島の3県では選挙はできないはずである。総務省選挙課は「可能」といっていたが、全員避難の自治体や、死者・行方不明者の多い自治体では選挙人名簿の確定ができない可能性については危惧していた。
 わたしが三宅村で起こった過去の事例を採り上げたことにもよるが、衆議院議員選挙で、「不在者投票」の概念を拡大解釈して、選挙を執行しても、当選者ゼロの選挙区が出てくる可能性もあるし、当然、そのことは比例区にも反映し、比例区の票を確定できなくなる。そうすれば、被災3県の衆議院選挙は無効になりかねない。当然、3県選出の議員がゼロなら、選挙全体の有効性が問われる。
 それでも選挙はできるし、法的にも問題がない、と思っている人がいるようだ。もし、そうであるならば、住民ゼロの自治体、あるいは、自治体の「住民」のほとんどが避難している自治体へ住民票を、みんなで移そう。居住実態がなくても、3ヵ月経過すれば、選挙人名簿に登載してもらえる。特定の人物を当選させたい、特定の団体に所属する人々は、これを、ぜひ、やってもらいたい。従来、こういうことをすると、公職選挙法違反に問われる可能性があったが、法整備をしない以上、それは公認されたことになるからだ。
 そうさせないためには、ぜひ、地方自治体の亡命政権のような概念を確立し、それに関する選挙法も整備してもらいたい。それも緊急に、である。そうしないと、衆議院議員選挙もできなくなる。衆議院が解散しても選挙ができなければ、参議院だけで総理大臣を選ぶことができないのではないか?
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