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第41話 オジロワシが翔んできた |
2008.04.01
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昭和48年3月2日の午後のことだった。午前中、島内電話の料金通知書づくりと、1月分の国民年金の検認実績報告書の書類を作成したが、午後2時ごろ都庁宛の書類を持って郵便局へ出かけた帰り道、杉ノ沢の発電所の前の佐々木重雄さん宅(現・民宿杉ノ沢)へ立ち寄った。そこへ、発電所勤務の役場の技師・中村倉一さんが血相を変えて現われた。
「ぼうけ鳥だらら。ニワトリメをこごんして、こごんして…」と、倉一さんが奥山長作さんの家に検針に行ったら、突然、大きな鳥が舞い降りてきて、ニワトリを襲っているさまを、自ら演じながら興奮気味に語る。そして、思わず、近くにあった棒で、その「ぼうけ鳥」を殴ったというのである。
「倉一さん、その大きな鳥ってワシじゃあないですか。ワシだとすると…」と言いかけて、「それ見せてください」と、わたしは倉一さんと近くの長作さん宅のニワへ向かった。それは誰が見ても大きな鷹か鷲に思えた。とにかく二人でその大きな鳥をおさえながら抱いて、再び重雄さん宅へ戻った。ちょうどそのとき、池之沢へ遊びに出かけていた私の友人の吉田武志さん(2月28日〜3月20日、わたしの第一在島時代、計4度、青ヶ島を訪ねてくれた)が帰ってきた。
ワシだとすると、天然記念物とか国際保護鳥の可能性もあるし、最初はぐったりしていた鳥も元気を回復してきたように思えたので、吉田氏と一緒に、とりあえず役場か学校まで持って行くことにした。そして、役場から学校へ電話して、当時、教頭をしていた山田常道さん(のち村長)に学校で飼ってもらえないかと打診したのである。
(写真は、とりあえずワシを見てもらうため、暴れるワシの羽を吉田氏とおさえているときのものである。おそらく、写真は駐在に撮ってもらったのではないかと思う。)
しかし、放鳥したほうがよいだろう、という教員たちの助言で放したものの、やはり飛び立つことができなかった。見た目にはどこも悪いようには見えなかったが、棒で殴られたダメージが大きかったようである。結局、学校の空いていたウサギ小屋に入れられて様子をみることになった。しかし、夕方には学校から「死んでしまった」との連絡が入った。その旨、都八丈支庁産業課林務係へ電話すると、「数日前、八丈島でオジロワシが翔んでいるのが目撃されているので、それではないか」ということであった。
あくる3月3日は土曜日で、当時は半ドンだった。朝、支庁林務係から電話があり、次の船で死んだオジロワシを送ってくれとの依頼があった。そこで学校へ電話をすると、昨晩、共同興業の保育所建設現場の近くに埋めてしまったということで、その場所へ行って掘り起こし、その遺骸を役場へ持ち帰った。その日の日記を見ると、それだけで半日の仕事が終わってしまったとある。
ちなみに、午後は吉田氏を誘って、まず大凸部(おおとんぶ、標高423m)へ登ったあと、東台所神社を参拝し、外輪山の峰づたいに歩いて大里神社を参拝し、大根ヶ山のイシバ(神明様および金山様など)、仙太郎鍛冶の屋敷跡のカナヤマサマ、向里(フジヤマボラ沢)の奥山神主家のイシバなどを巡拝したあと、廣江次平さんと菊池梅吉さんを訪ね、梅吉さんゆかりの、「昔、子どもが大鷲にさらわれた」という口碑がある下方(したかた:地名)のモニュメント(これもイシバの一種?)を訪ね、さらに長ノ凸部の金毘羅神社へも参拝している。かなりワシのことが気になっていたのである。
その日の夕方から風が強く吹き始め、我が家の入り口の戸は深夜、バタン・バタンと鳴った。北西風が強く吹いていたのである。しかし、翌朝、目を覚ますと、なぜか風はおさまっていた。しかし、ピンポンパーンと有線放送のチャイムが鳴ったときは、てっきり本日(3月4日)の入港は中止だろうと思って、じつは喜んだ。ところが、伊豆諸島開発の定期船「黒潮丸」と村営連絡船「あおがしま丸」のアベック入港となったのである。(なお、このときの船で3月8日から流感が蔓延し、ぼく以外の役場職員は数日間は全滅した。その余波で、友人の吉田氏が発電所のアルバイトをしている。)
午前9時、我家の前の役場へ行って、支庁林務係宛に出すオジロワシの「お棺」の荷造りをし、それを担いで廣江寛一さん宅(現、あじさい荘)の前まで歩いたところで奥山喜久一さんのジープに拾ってもらって三宝港へ。当時、わたしは艀組合の出面(でづら)の記帳事務と三宝港「上の倉庫」の荷役担当の小頭(こがしら)をしていたが、その日は午後6時5分、黒潮丸が出港するまでセメント袋を担いだり、発電所用のA重油ドラム缶を転がしたりの作業をした。
ちなみに、翌5日、支庁林務係から電話があり、やはり、あの、ぼうけ(大きな)鳥は生後2年ほどのオジロワシであることが判明し、のち、若干の紆余曲折があったが剥製となり支庁ロビーに展示された。ただし、今はどうなっているか、わからない。
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