騒ぎ吠え遊び楽しんでいる
平成27年1月1日
潮が騒いでいる
浪が吠えている
海が遊んでいる
島が楽しんでいる
でも 主語を換えてもよい
すぐ近くまで珊瑚を密漁に来ている奴らもいるけど
そいつらを横目で睨み付けながら 海に浮かぶ島は楽しんでいる
我等はちょっと見には独りぼっちだが
島はとどろの新波の、荒波の上で騒ぎ吠え遊び楽しんでいる
さばへなす虎船も蠅船も蹴散らかせ
潮よ 浪よ 風よ 我等の海よ
日光が飛び石の島々を放物線を描きながら照らし出す
阿波禮(あはれ)
阿那於茂志呂(あなおもしろ)
阿那多能志(あなたのし)
阿那佐夜憩(あなさやけ)
飫憩(おけ)
潮・浪・海・島と日光が一つになって
騒ぎ吠え遊び楽しんでいる
哭き笑いながら 顔が火照る 面が赤らむ
島々と共に 八百萬の神たちと共に
誰よりもたれよりも遊び楽しみ笑いたい
ヲケ オケ Okay!
『古語拾遺』や『先代旧事本紀』によれば、「あはれ あなおもしろ あなたのし あなさやけ おけ」は、天石窟(天の岩戸)に幽居されていた天照大神がお出ましになったとき、八百萬の神々が口々に発した言葉とされる秘詞。昨年11月上旬、『現代語訳 古語拾遺』(KADOKAWA 新人物文庫、920円+税)を上梓しました。
我等は鬼の子孫である
平成27年2月1日
島という概念の根源はオーである
オーは青である 奥である 沖である
青は無位であり究極の草莽である
打ち寄せる荒波にあらがって
孤島霊(コトタマ)をいつも磨いているのがオーの島だ
じっと島々を見つめよ
我等青き島の住人は孤立を怖れぬ究極の蒼き草莽だ
ザブンと青浪が打ち寄せてドーと白く砕け散る
オーの島である青ヶ島は六つの異名を持っている
男(オノ)島・オフノ島・鬼ヶ島・小鬼(ヲガ)島・葦島・青ヶ島
ヲ―・オーの島々は鬼ヶ島である
我等の島は鬼ヶ島の典型だ
青白い飛沫(しぶき)の中に日光が反射すると
その瞬間を誰も見ていないかもしれないが
鬼の時代の島の記憶が蘇る
かつて自由に飛び回っていたのに
閉じ込められるようになった日々
今はずいぶん便利になったと思われているけれど
実はそう単純なものではない
そのせいで 人を喰うより人に喰われてしまうことのほうが多くなったが
それでも我等は誇り高き鬼の子孫だ
隠れ蓑・隠れ笠・浮かび沓・沈み沓・劔なんどの
先祖から受け継いだはずのこれら鬼の宝物が発する果報の霊験は
もうとっくに消失してしまった
宝物自体も桃太郎か あるいはその手下を詐称する連中に持ち去られたのであろうか
我等の島々の周辺では オモウワヨ~!
アバヨーイ! と ちょっと前まで桃色珊瑚が微笑みながら手を振っていたはずだが
しかし これらの宝物も根こそぎ奪われてしまったようだ
君等に告ぐ 我等が鬼の子孫であることを忘れないでほしい
お願い 街を歩いている時、鬼の子孫に気付いたら、「福は内、鬼も内」と唱えてください。
小鬼の悲哀を乗り越えて
平成27年3月1日
大里神社 旧社号は鍾馗神社
小鬼(セウキ)が鍾馗に変身して祀られる
やられる側が名前を変えさせられて祀られる
小鬼の悲哀 存在の証拠が偽造されること
悪いことをしてきたのはいつも鬼ばかり
(というのが歴史教科書の正しい歴史認識)
おお お前ら 正気かよ と言いたくなる
俺らのほうは随分 笑気だよ
(本当は笑う気はないけれど)
ああ こうなったのも鬼の宝物を奪われたからなのであろう
満月の空の下 青鬼や赤鬼がタンゴを踊っている
シッチョイ シッチョイ 手の鳴る方へ
ちょっと離れて見れば 青鬼も赤鬼も小さな黒鬼だ
そして気が付けば いつの間にか鬼たちも散り散り
きっと隠れ蓑でも見つけたのに違いない
その他の宝物の行方も シッチョイ シッチョイ
朧げではあるがほんの少しはわかったはずだ
鬼界の 鬼海の 幻視の最深辺境部の海や島へ
焼け埃と呼ばれて退却せざるを得なかった我等小鬼の祖(おや)たちよ
鬼ヶ島を死守しながら鬼ヶ島から出撃せよ
既に鬼籍に入った諸々の小鬼の同志たちよ
生きろおれ でいらほん 死ねおれ でいらほん
我等 今までは がやがやそーわか 少々天狗ではあったが
今から 小鬼に変身して 死者と生者の全共闘だ
還住太鼓も聴こえてくる シッチョイ シッチョイ繰り出そう
崖の崩壊
平成27年4月8日
荒磯のゴロタ石の波打際
潮を被らないように立つ
崖に上から小石が落ちてくる
ずる、ずる、ざら、ざらと移動する
ときどき大きな石も落ちてくる
崖が崩壊し始めている
崖の崩壊が続いている
昔、崖の途中にあったイシバの神が無くなってしまった
ハチジョウススキも落ちてくる
人間や牛が通らなくなると崖の崩壊が止まらない
赤茶けた島肌が露出する
露出度がますます拡大していく
誰も気付いてくれないけれど
沖の波が吠えながら見ている
錆び付き半分腐ったようなドラム缶が欠伸をしている
それでも神子ノ浦のイシバの神はおわします
赤いルビーのイチビの実
平成27年5月1日
紅いルビーのイチビの実
窓辺にはモンシロチョウが羽を休めたように紫陽花が繁る
神座(かみくら)の温もり
大凸部や東台所の峰々が薄くベールを棚引かせる
梅雨の走りである
慈雨が降り注ぐか 霧々舞いか
ときどき 五月の陽光のなかで思い悩む
白く踊っている沖つ波
そ知らぬふりの女護ヶ島
神の恩寵 ヘリが飛ぶ
朝便は欠航したのに臨時の夕便が飛ぶ
男ヶ島は女神に守られている
でもチョーヤのなかはがらんどう
でも玉石段を登って祈りに行けば確かに神はおわします
御魂の恩頼(ふゆ)が戴ける
参拝の道
平成27年6月2日
六月の道は歩きづらい
だいいち足元が湿っているし
露出した石には苔が生えている
深呼吸をしなくても空気のほうが肺の中に飛び込んでくる
それが何とも黴臭い
神寂びの 神すさびの島神に到る路
地面を見つめると 竹が一気に伸びている
それが行く手の邪魔をする
焼鎌の利鎌を持ちて打ち払う
わたしに振りかかる呪いと悲しみを打ち払う
ただ独り 道を往く
呟く 呟く 呟きたい
その呟きを否定するため
竹やガクアジサイの枝を打ち払う
人気のない道を歩きながら雑念を打ち払う
ケッキョ ケッキョ ケッ ケッ ケー
ホトトギスが鳴いている
〈星の箱船〉はUFOか?
平成27年7月1日
昔、といっても、僕にとってはあまりそうでもないけれど、
つまり、昭和44年7月のことだが、
当時、青ヶ島は「月よりも遠い」と言われたものだ。
アポロ11号が打ち上げられたのが7月16日、
月面到着はその4日後、
そして地球に戻ってきたのは24日のことだった。
今でもときどき、そういうことが起こりうるが、
決められた日に出発し、
予定した日に青ヶ島に到着し、
スケジュール通りに帰宅するのは至難の術だ。
そういう島々を集めたランキングが発表された、
日本経済新聞2015年(平成27年)6月13日付
NIKKEIプラス1「何でもランキング」
題して「長旅は承知! それでも訪ねたい離島」
その第1位に見事、青ヶ島が輝いた。
青ヶ島は「月よりも遠い」から限りなく宇宙に近い。
否、青ヶ島は宇宙に浮かんでいるのだ。
実際、海(あま)に浮かぶ青ヶ島は天(あま)に浮かんでいる。
青ヶ島は〈星々の揺り籠〉であり、
青ヶ島の最近のキャッチフレーズでは「星の箱船」だ。
この「星の箱船」はマルチタレントで自称「天文女子」の篠原ともえさんが言いだしたものらしい。
篠原ともえさんは、のぶゑ婆(バイちゃん)の曽孫、清子婆(バイちゃん)の孫である。
ガヤガヤ ソーワカ 天狗ジト リシャクガ 千五六百夜の三十三デソロボー。
へいかがふれ ひとももうす ふーらんめ。
おそらく、「星の箱船」には星々の精が乗っている。
何の理由かわからないが、星々の精は銀河系宇宙・太陽系第三惑星の地球の青ヶ島を目指してやって来たのだ。
ちょうど天明年間の青ヶ島の大噴火で八丈島へ避難したように。
そういえば、青ヶ島の東台所神社のトウダイは星々の精たちの灯台であり、
その祭神のテンニハヤムシサマのハヤムシは彼らの乗り物の速星であったかもしれない。
見よ! 青ヶ島を! ヘリで降り立つとき、池之沢を見よ!
青ヶ島の形状はまるでUFOではないか?
星々の精たちが方舟に乗ってやってくる安らぎの島が青ヶ島だ。
長旅は承知! それでも訪ねたい離島No.1が青ヶ島だ。
トコロテンの目が変にテンになろわよ
平成27年8月1日
「長旅も承知! それでも訪ねたい離島」のNo.1に輝いた直後、
おお、また更なる栄誉か、デーラホン。
鬼ヶ島へ 鬼ヶ島へ 男ヶ島へ 男ヶ島へ
と草木もなびくよ したもーれ!
沖で見たときゃ 当然至極の 鬼ヶ島と見たが
荒波 三角波 乗り越えて 霧の隙間を掻き分けて
天翔けてヘリが飛び、海駆けて船が走り、
シッチョイ シッチョイ
近寄れば情島どうじゃ、否、やっぱり鬼ヶ島だよ、デーラホン。
おお、今度は「死ぬ前に見るべき世界の絶景13選」で唯一、日本から青ヶ島が選ばれとうじゃ。
あが てっつも知りんどうことだいば…、はじがましきことどうじゃ、
《日テレ2015年7月19日朝放送の『所さんの目がテン』で青ヶ島が紹介された。》
あが「トコロテンの目が変」かと思うただらら―
トコロテンといえば、青ヶ島のブトのことどうじゃ、クニしゃんの心太(トコロテン)とはちょっと違うように見えるけど、うまけものよ。
そのブト(心太の古語)の中のツブツブの、ブツブツの目が天になり、点になり、展じたり、転じたりしたのかと思うたら、
やっぱり所さんの目が点になったり、天になったり…、変どうじゃ、
グレートバリアリーフ、ウユニ塩湖などと並んでビックリ、魂消たわよ、
あが それを見て、それが移って、あが目も変になろわよ。
運が悪いと長旅になってしまう《異界》ではあるけれども、
青ヶ島げぇ おじゃりやれ! 生きている間に何度でも!
タイフウ
平成27年9月1日
お目メぱっちり円らな瞳
今(ま)はどうだかしょくなっけどうが
青ヶ島では台風と大風の区別がない
タイフウなのだ
おお 台風よ 静まりやれ
でも それなりの恵もある
タイフウが収まると山道にはちょうど手頃な枝が落ちている
ヤマしゃんゲェ薪を拾いに行こわよ
ま(今)誰も拾いに行きんどうが
風呂をマキで沸かしていた頃は
薪は風の三郎さまの恵だった
タイフウのあとは枯れた枝が落ちていた
一人暮らしのバイちゃんや
ジグラでの隠居暮らしの老夫婦は
あまり労せず薪を拾えた
背負子とか籠を背負ってヤマへ出掛けた
いろいろな悲しみや苦しみや堪えられなさを
風が吹き飛ばしてくれる
風速55メートルというのを体験したことがあるが
耐風の島、青ヶ島では七~八メートルはそよ風だ